[弁護士コラム 16]代筆を理由とする保証否認

 代筆がされた場合に,その保証を否認することができますか?
 代筆がされた保証契約書をめぐって,その効力が争われることがあります。
 こういった場合には,まずその代筆が本人の意思に基づいてなされたものであるかが問題となります。
 本人の意思に基づいていれば,誰が代筆しようとも,本人が契約をしたと言えるからです。
 そこで,代筆をしたものに,本人が代筆権限を授与をしたかどうかがポイントとなります。

 そして,代筆権限の授与が認められなかった場合には,民法上の表見代理責任が問題となります。
 表見代理とは,代理権がないのに代理権が存在するかのような外観を呈しているような事情があると認められる場合で,そのような外観作出について,本人に責任がある場合に,その外観を信頼した相手方を保護するため、有権代理と同様の法律上の効果を認める制度です。
 以下,順に説明いたします。

 どのような場合に,署名代理権が認められますか?
 代筆において,署名代理権限が認められれば,その代筆は本人自身の署名と同一視されることになり,当然に保証契約も有効とされることになります。

 この点,本人から代理人に,署名代理権限を与える旨の何らかの通知があれば,もちろんこの署名代理権限の認定は容易ですが,明らかな通知がない場合であっても,代理権限が授与されていると認定されることは少なくありません。

 本来,通常署名は自筆でなされるものです。
 とすれば,問題となっている契約が,何故代筆でされたのか,代筆でなければならない特段の事情があったか否か,そして,そのような特段の事情を立証できるかどうかということがポイントになります。
 例えば,東京高判昭61年8月28日判決では,土地所有者であるAが当時86歳で脳軟化症で病床に臥している場合に,その所有不動産の登記済権利証及び実印を含む印鑑をすべて長男であるXが管理していて,必要な時はその子のBがXの承認のもとに交付を受けて使用していたなどの事情のもとにおいては,XはAを包括的に代理していたものであって,Xの承諾のもとになされたA所有土地についてのY信用金庫に対する根抵当権設定契約は,Aに対して効力を生じるとして,署名代理権の授与を認めています。

 逆に,東京高判昭61・8・28日判決では,根抵当権設定契約及び連帯保証契約が,本人の二男あるいはその妻によって締結され,本人は事前または事後に何らかの相談を受けたりこれを承諾したことはなく,契約書の作成や根抵当権設定又は変更の登記手続に使用された実印や登記済証は,本人の妻が本人に断りなく二男の妻に手渡したものであると認められるときは,これらの契約は,代理権のない者によって締結された無効のものと解されるとして,本人の責任は否定したものの,本人の妻については署名代理権限を付与したものとしてその責任を肯定しました。
 どのような場合に,表見代理責任が認められますか?
 では,署名代理権限がなかった場合に,どのような場合に,表見代理の責任が認められるでしょうか?
 この点,署名代理権限がない場合には,本人に外観作出に責任がないことが多く,表見代理が認められないケースが多いと思われます。

 例えば,東京地裁平成11年6月10日判決は,Xの代理人と称するAと根抵当権設定契約書を締結したとしても,Xが銀行の担当者に対し,Aに代理権を授与する旨の意思を直接表示したことはないことはもとより,その所有する不動産への銀行に対する債務を担保するため,根抵当権を設定する意思があることを表示したこともないことが認められ,かかる事実の下では,Aが本人の印鑑登録証明証・登記済証・建築確認通知書等を持参Lで,契約を締結したことが認められても,その事実をもってXがその意思に基づき銀行に対し,Aに本件代理権限授与の表示をしたものと解するには十分ではない。よって,民法109条の表見代理は成立しないとしています。

民法109条
第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は,その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について,その責任を負う。ただし,第三者が,その他人が代理権を与えられていないことを知り,又は過失によって知らなかったときは,この限りでない。

 もっとも,この場合,本人に責任追及が難しい場合には,署名代理をした者に対して無権代理人の責任を追及できることになります。無権代理人は契約が成立した場合と同様の義務を負うことになります。
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