[弁護士コラム 17]ゴルフ場での事故について

ゴルフ場で打球が第三者にあたった場合,どのような責任がありますか?
 ゴルフという競技の性質上からすれば,硬球を高速で飛ばすことからすれば,人身に対する一定の危険性が生ずることは避けられないとも言えます。
 そこで,プレイヤーやキャディ等のゴルフ場職員においても,このような危険性が存在することは十分にわかったうえで,そのことを心得て,プレーをしているものと思われます。
 このような特殊事情を,不法行為に基づく過失責任の成否についてどのように勘案するかが問題となります。

 いわゆる,スポーツにおける危険受忍論が,ゴルフ競技にも適用されるのか,という問題とも言えます。
 確かに,人身に対する危険が生ずるスポーツ一般においては,競技者全員が,そのような危険を甘受して当該スポーツに参加しています。
 そこで,当該スポーツにおける基本的ルールやマナーを遵守したにもかかわらず,それでも発生してしまった被害については,競技者全員が,そのような危険を甘受して当該スポーツに参加している以上,法的責任を問われる理由はないともいえます。  そうじゃないと,あらゆるスポーツ自体が成り立たないとも言えるからです。
 しかさいながら,ゴルフは,ボクシングやラグビーといった競技とは異なって,直接に他の競技者に対して有形力を行使するわけではありません。
 もっといえば,野球は,他の選手に向かって球を投げるものですが,ゴルフは,同じ球技でも,他のプレーヤーに対して球を打つものではありません。
 そこで,ゴルフ競技においては,人身被害が発生してしまった場合は,原則として,加害者である球を打ったプレイヤーの責任が大きいと言えます。
 判決でも,被告のプレイヤーに「球が飛ぶことが予想される範囲内に人がいないことを確認し,いる場合は『打ちますよ』などと声をかけて打つべきである」等の過失が認定されるのが通常です。

 ただし,上述したとおり,ゴルフという球技が,硬球を高速で飛ばすものである以上,人体に対する危険が常に生じうることは,参加者が共通して認識しているものと言えます。
 そこで,受傷した側においても,危険を回避するためのしかるべき措置をとれたにもかかわらずとらなかった,という過失が存することもありえると言えます。

 当事者の過失割合はどうなりますか?
 名古屋地裁平成14年5月17日判決では,バンカーショットがキャディの眼にあたった不法行為についての過失割合を判断し,プレーヤーとキャディの過失割合を半々としました。

 判決は,以下のように判断しています。
 まず,アブローチショットを行うプレイヤーは,他の競技者やキャディの動 静に十分な注意を払い,後方など完全に安全な位置にいるか,あるいは飛球を避けられる程度の位置・距離にいて打球動作を注視しているかを確認し,もし少しでも不安が残る時には,声をかけるなどして自分が球を打つことに註意を喚起する義務があるとしています。
 その意味で,第一次的には打球を打つプレーヤーの責任を認定しています。

 しかし,キャディには,その職務上,一般競技者以上に,事故,とりわけ自分自身被害者になるような事故の発生回避には十分注意を払うべき義務があるとしています。
 単なる競技者ではなくて,プロのキャディは,ゴルフの危険性を十分に熟知しているということを前提にしていると思われます。

 そして,上記の双方の事情を勘案して,過失割合を5割としました。

 なお,本件は,いわゆる「シャンク」の事案であって,ボールの飛んだ方向が,当事者にとって全くの予想外の方向であったものです。
 しかしながら,かような事案であっても,「シャンク」となることは,ゴルフ競技上ありうることなので,当事者は打球の方向について十分に注意を払わなければならないと言うことです。
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