[弁護士コラム 22]離婚慰謝料と不貞慰謝料の請求

不貞行為の慰謝料の法律関係はどのようなものですか?

 不貞行為があった場合には,離婚に際して,慰謝料が生じます。
 もっとも,これは不貞行為が離婚の原因であった場合でなければいけません。不貞行為があっても,それが夫婦関係が別の理由で破綻していた後の不貞行為であって,離婚の原因になっていないということであれば,慰謝料の対象とならないと言えます。

 そして,不貞行為で慰謝料を支払うことになるとすると,その支払義務者は,不貞行為をした夫婦の一方と,その不貞行為の相手方ということになります。

 もっとも,この場合に,慰謝料を「ダブル」で貰えるということではありません。
 不貞行為をした当事者は,夫婦の一方に対して共同で不法行為をしたということになり,「共同不法行為」の関係になります。
 共同不法行為の加害者は,連帯して,被害者に対して損害賠償義務を負います。
 それぞれが別個に責任を負うわけではなく「連帯して」責任を負うものです。
 「連帯して」というのは法律用語ですが,支払義務者の一方が,損害賠償を全額支払えば,もう一方の支払義務者も責任を免れることになります。

離婚慰謝料を別途貰っている場合にはどうなるのでしょうか?
 では,離婚に際して,不貞行為をした夫婦の一方から離婚慰謝料を貰っている場合に,重ねて,不貞行為の相手方に対して慰謝料の請求をすることはできるのでしょうか。

 上で述べたとおり,不貞行為が共同不法行為である以上,不貞行為をした両名に対して,ダブルで慰謝料をもらえるものではありません。
 そこで,離婚慰謝料を受領したということになりますと,やはり,重ねて不貞行為の相手方に慰謝料を請求することはできません。

 なお,慰謝料としてもらっていないけれども,財産分与として1/2を大幅に超えるような過大な財産分与を受けているということになると,やはり,その趣旨は慰謝料を含むものとして,やはり,重ねて不貞行為の相手方に慰謝料を請求することができなくなる可能性がありますので,注意が必要です。

 もっとも,「慰謝料」というのは様々な理由があります。
 もし,「慰謝料」名目で借りていたお金を返す等の,不貞行為とは別途の根拠があるとすれば,離婚慰謝料を貰っているからと言って,不貞行為の相手方に慰謝料を請求できる可能性もあります。

判例紹介(横浜地方裁判所平成3年9月25日判決)

 前記認定のとおり,原告と右セブンとの離婚の主たる原因は被告と同人の不貞行為にあるというべきであるから,右金五〇〇万円の慰謝料には本件不貞行為による原告の精神的苦痛を慰謝する趣旨も当然含まれているものといわざるをえない。そして本件の不貞行為は被告と訴外セブンの原告に対する共同不法行為を構成し,それぞれの損害賠償債務はいわゆる不真正連帯債務の関係になるものと解されるところ,本件では右のとおり共同不法行為者の一人である訴外セブンから原告に対し,既に前記認定の相当額を上回る慰謝料の支払いがなされているのであるから原告の本件精神的損害は全額填補されている関係にあり,被告の原告に対する本件損害賠償債務も右訴外人の履行行為により消滅したものといわざるをえない。」

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