[弁護士コラム 27]非監護権者に対する子の引渡請求

すでに離婚をしているのですが,親権者は私であるにもかかわらず,元夫が未成年の子を手元においています。どうしたら良いのでしょうか?

 既に離婚したにもかかわらず,親権者ではなく監護権者でもない元夫が未成年の子を手元に置いている場合には,あなたの方から,親権者そして,人身保護請求により子の引渡しを要求することになります。
 その場合には,原則として,親権者でないものの監護は違法であって,人身保護請求によるこの引き渡しが原則として認められることになっています。

 すなわち,最高裁平成6年11月8日決定では,子の監護権を有する者が監護権を有しない者に対し、人身保護法に基づき幼児の引渡しを請求する場合においては,「被拘束者(子供)を監護権者である請求者(母)の監護の下に置くことが拘束者(元夫)の監護の下に置くことに比べて子の幸福の観点から著しく不当なものでない限り,非監護権者による拘束は権限なしにされていることが顕著である場合に該当し、監護権者の請求を認容すべきものとするのが相当であるとしました。

 すなわち,請求者(母)の監護が子の幸福に反していないことが明白である限りは,拘束者(子供)を拘束していることは,違法性があるとして、請求者(母)の請求を認めた。

 かように,最高裁判所は,「監護者である」という形式面を重視しており,仮に拘束者(元夫)の監護の状態が子の福祉に反していなかったとしても,妻側の監護が子の福祉に反するものではな限りは,監護権者である母親による監護を認めるものとしています。

非監護者が子供を渡さないで良いという事例は一切ないのでしょうか?


 かように,原則として,監護権を有する親権者の,この引渡請求は認められることになりますが,それではいかなる場合にも例外は認められないのでしょうか?
 この点,事例として,離婚後の父母間で人身保護請求が申し立てられた事件の判例があります(大阪地裁平成19年2月21日判決)。

 この事件では,離婚後の父母間であったとしても,複数の子どもとの同居や交流が継続的に続いており,それまでも親権者・監護者の変更があったような事実があり,必ずしも権利関係と実態とは一致していない事例でした。

 裁判所は,請求者(親権者である父)の監護が子の幸福に反するか否かを,父母の経済状況,互いの住居や生活状況,監護協力者である祖母が子に対して言っている母親の悪口の内容,8歳の子の意見,兄弟の同居状況,子供を監護しているのが実力奪取ではないこと等の養育状態を詳細に総合比較衡量しています。
 そして,結論としては,親権者である父親の監護は子の幸福の観点から著しく不当と判断されて,父親からの引渡請求は否定されました。

 かように,人身保護法の事案であっても,詳細な利益考量がされることもあり得ます。
 結局は,ケースバイケースですが,いずれにしても,子供の福祉から何が良いかを裁判所に協力して判断することが必要です。

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