[弁護士コラム 31]賃貸借のペット禁止特約
私は,オーナーとして建物を賃貸しているのですが,賃借人が猫を沢山飼っており,鳴き声や悪臭等で近隣から苦情が来ています。賃貸借契約を解除して退去して貰うことは可能でしょうか。
賃貸借においては,借主は貸主に対して各種の義務を負っています。
一番重要なのは,賃料支払義務ですが,他にも,「善良な管理者の注意」をもって賃借物を保存する義務があります。
さらに,契約または賃借物の性質によって定まった用法に従って,その物を使用収益する義務があります。
他人の物を借りるわけですので,その物自体をきちんと管理しなければならないのは当然の前提だからです。
建物の賃貸借契約においても同様です。
この点,ペットについては,契約による賃貸物件の使用制限として,ペット飼育禁止特約を設けることがあります。
ペットの存在で,部屋が通常の使用以上に傷ついたり,騒音や悪臭・近隣トラブルの原因となったりすることも多くあります。
ですから,このような特約も,判例上は,原則として有効なものと認められています。
そこで,借主がこの特約に違反したような場合には,貸主は借主に対しペットの飼育を止めるよう求めることができます。
また,違反の程度によっては,賃貸借契約そのものを解除することもできます。
もっとも,ペットと言っても,様々なペットが考えられ,ペットの存在で,物件の管理状態がどのようになっているのか,また,近隣迷惑の程度がどのくらいかというのは,ケースバイケースで様々と思われます。
ですから,ペットを飼育しているというだけで,全てのケースで直ちに特約違反と認められるかは微妙な面もあります。
ペット飼育禁止特約がない場合には,ペットを飼っていることで契約を解除することはできないのでしょうか?
では,ペット飼育禁止特約がない場合にはどうでしょうか?
この場合には,直接の特約違反というわけにはいきません。しかしながら,上述したとおり,賃貸借の借主は,賃貸借の目的物をきちんとした用法に従って管理使用する義務を負っています。
そこで,ペットの飼育が,通常ではあり得ない異常な状態となっている場合には,契約を解除できる可能性があります。
たとえば,借家の室内で猫を10匹放し飼いにして,借家の周囲にペットフードなどのえさを置くなどしたために,野良猫十数匹余りが常時敷地内に集まって,その悪臭や鳴き声について近隣から苦情が出たなどと言った事案があります。
裁判所は,このような場合には特約がなくともペットの飼育が居住に付随して通常許容される範囲を明らかに逸脱しており,信頼関係を破壊する程度に至った場合には用法違反として賃貸借契約を解除できるとしたうえで、貸主の明け渡し請求を認容しています(東京地裁昭和62年3月2日判決)。