[弁護士コラム 33]養育費を支払わない合意の効力

妻は離婚に際して養育費はいらないということで,養育費を請求しないとの合意をしました。しかし,最近になって養育費を支払って欲しいと言ってきております。私は,その請求に従わなければならないのでしょうか?

 養育費は,未成熟の子の親権者が,監護をしていない方の親に対して,子の養育に必要な費用を請求するものです。
 離婚する際には,養育費について,月額を決めて合意をするのが通常ですが,時には,離婚時の交渉の中で,「養育費の請求をしない」という取り決めをすることもあります。
 しかしながら,この養育費の不請求の合意というのは,額面通りとならない危険性があります。
 というのは,この養育費不請求の合意は,親同士の合意にすぎないものだからです。

 しかし,本来的には養育費は子の養育に要する費用でなので,親の都合で左右される筋合いのものではありません。
 即ち,子供自身が,子供から親に対する生活費を請求する権利があるのです。
 これは,扶養料請求という権利で,民法881条で,「扶養を受ける権利は、処分することができない。」と定められています。
 そのために,子供が親に扶養料を請求する権利は,親同士の合意によっても無くすことはできないのです。

 かような理屈から,親同士で養育費不請求の合意をした場合であっても,当事者の子供は,別途,親に対して扶養料を請求できることになるので,養育費不請求の合意というのは,実際には何ら効力を有しないことになるのです。

では,妻に対して慰謝料請求ができる場合に,それと相殺をすることはできませんか?


 養育費と慰謝料について,以下のような合意があった場合に相殺は可能でしょうか。

1 夫は,妻に対し,子供が20歳になるまで、毎月5万円を支払う(養育費総額500万円)。
2 妻は,夫に対して,慰謝料として、500万円を支払う。
3 上記1と2の債権を対等額で相殺する。

 一見,相殺は養育費の不請求の合意ではないので,有効な合意とも思えます。
 しかしながら,民法510条によって,差押えが禁止されている債権については相殺が出来ないことになっています。
 そして,養育費は生活のための重要な権利ということで差押えが禁止されています。
 そこで,養育費については,相殺が禁止されています。
 さらに,民法881条で,扶養請求権は処分できないとされています。

 それゆえ,養育費を相殺する合意があったとしても、弁済期が到来していない養育費請求権を予め相殺することはできません。
 きちんと法的に対応しようとすれば,現実に,お金を振り込みあえば問題はありません。
 もっとも,現実問題としては,双方が相殺に納得していれば問題がないとは言えます。

 → [弁護士コラム]目次へ戻る





相模大野駅前弁護士事務所
〒252-0303
相模原市南区相模大野8-10-4 101セントラルビル 201
(駅徒歩3分)