[弁護士コラム 34]ゴミ置き場の存在と売買契約の解除
不動産を購入したところ,購入物件の前の道路にゴミ置き場が設置されることになっていることが判明しました。私としては,全く予想外の事で,契約を解除したいと思いますが,できますでしょうか。
ゴミ置き場が自宅前にあるというのは,通常の感覚でもあまり好ましいことではなく,あなたが不愉快な気持ちになることは理解できます。
そして,売買契約後であっても,契約内容に「瑕疵」があって売買の目的が達せられないような場合には,売買契約は解除できることになります。
しかしながら,判例で争われた事案では,ゴミ置き場の存在は「瑕疵」ではないとされました(神戸地裁尼崎支部平成13年5月20日判決)。
裁判所は,ゴミ置き場は快適な市民生活を送るために必須のものであり,住民の誰かが住宅前にこれを設置することを受忍しなければならないこと,ゴミ置き場は囲いや区画があっても恒久的なものではなく,永続的にゴミ置き場として使用されるものではないこと等を認定して,「瑕疵」には当たらないとしました。
そこで,あなたが,ゴミ置き場がないことを絶対の条件として売買時にそのことを告げていたというような何か特殊な事情がない限り,契約の解除は難しいと思われます。
では,私はゴミ置き場の存在をずっと我慢し続ける必要があるのでしょうか?他の家の前に順次設置するなど輪番制にして貰うことはできないのでしょうか?
このように,ゴミ置き場の存在を理由に契約を解除しえないとしても,ゴミ置き場を利用している地域住民に輪番制を申し入れることはできないのでしょうか。
ゴミ置き場は,利用するもの全員のためになるものであり,その負担を一家庭に押しつけるというのは,社会通念上も妥当ではありません。
そこで,判例上は,ゴミの輪番制を拒否するものに対してゴミ出しを禁止する旨の命令を出した事例があります(東京高裁平成8年2月28日判決)。
これらの裁判になったのは,概ねまず輪番制などの提案を住民間らで任意に協議した上で,輪番制に応じなかった者だけを相手にして,最終的な方法として「提訴」という形をとり,「輪番制を否定しつつ,一部の者の負担の上に,ごみ集積所を利用することは許されるべきではない」ということでごみ集積所の利用の差し止めを求めるという様に手続きを進めています。
もっとも,ゴミ置き場を利用している住人の数や任意協議における態度等の様々な要素を考慮して判断されますので,必ず差し止めが認められるというわけではありません。
たとえば,大分地方裁判所平成20年12月12日判決では,アパートの住民の多くが利用しているゴミ置き場をアパートの前に設置している事案において,差し止め請求を棄却しました。
そこで,重要なのは,いきなり「提訴」という形をとるのではなく,たとえば,調停手続などを利用して十分な話し合いをしたうえで,それでも話がまとまらない場合の最後の手段として差し止めを求めて裁判を起こすというように,段階をおって手続きを進めていくことが重要となります。