[弁護士コラム 35]遺産分割をせずに放置すると
父が死去して遺産分割をしようとしたのですが,揉め始めたので嫌気がさしています。このまましばらく放置してしまいたいと思いますが,問題がありますでしょうか?
遺産分割については,特に期間の制限はなく,何年たったとしても遺産分割をすることはできます。
しかしながら,遺産分割をせずに中途半端な状態を続けると,相続人(子どもの誰か)が亡くなることもありえます(これは実務上,「数次相続」といいます)。
その場合には,さらにその相続人が相続分にしたがって遺産を共有することになります。
そこで,その段階で,遺産分割をする場合には,さらに多くの相続人との協議が必要となります。
また,これを売却処分するためには,その全員の同意が必要となります。
しかしながら,数次相続が続くと,共有者間には,一回もあったことがないような面識もないケースも増えていきます。
さらには,共有者の中に認知症で能力を失っていたり,行方不明の方がいれば,ますます遺産分割は困難になります。
そこで,相続が生じたら,もめ事があっても相続人間で協議して解決すべきで,ツケを次代に引き継ぐようなことはやめるべきです。
遺産分割をしなかった場合に,その間の遺産からの家賃収入はどのようになるのでしょうか。管理しているひとが収得してしまって良いのでしょうか。
遺産分割が放置されてしまっている場合に,遺産からの家賃収入はどのように処理されるのでしょうか。
実務上は,被相続人の相続財産の中に賃貸用の不動産があった場合には,この不動産から生じる収益(賃料)は相続財産には含まれずに,相続人が法定相続分に応じて取得するとされています。
そこで,相続人の一人が,賃貸用の不動産を管理しているからと言って,この賃料をその者が受領し続けていたならば,あなたはその相続人に対して,自分の法定相続分に応じて,不当利得返還請求として,金額の返還を求めることができます。
もっとも,この請求権は,債権発生のときから10年で消滅時効にかかります。
したがって,家賃を収得していた相続人から消滅時効を主張されると,10年分の賃料部分しか返してもらえなくなりますので注意が必要です。
さらに,逆に,管理している相続人から賃貸不動産の固定資産税・都市計画税について,法定相続分に応じた負担を求められた場合には,これを拒むことはできませんので,注意が必要です。