[弁護士コラム 38]不貞行為と生活費の要求
妻は別の男性と不貞行為をしたうえ,子供を連れて自宅を出て行ってしまいました。このように彼女に非があるのに,「生活費を欲しい」と言われています。このような場合にでも生活費を渡さなければならないのでしょうか?
夫婦の間の生活費は,法律的には「婚姻費用」と言います。これは,結婚式の費用というような意味ではなくて,夫婦として暮らしていくのにかかる費用のことで,食費や住居費等の基本的な生活費に加えて,子供の養育費等の多様な生活費も含めています。
では,まず,別居中であっても,この婚姻費用を渡さなければならないでしょうか。
この点,別居していたとしても,夫婦は相互に助け合って扶養する義務があるので,法律的には,生活費を負担しなければいけません。
相互に助け合う義務が残るのは,同居中の場合と変わらないからです。
この点,別居が,双方の合意によってなされたものではなくて,一方的に別居に踏み切った場合でも同様とされています。
というのは,別居に踏み切った側が生活費を請求したとしても,その者に非があるかどうかは,別居に踏み切ったというだけでは何とも判断しかねるからです。 実際上も,生活力がない側が取り残されて別居になった場合に,生活費を請求できないとなると,あまりにも酷であると思われます。
もっとも,設問のように,生活費を請求している側が,不貞行為をしている等の明らかな有責配偶者の場合にはどうでしょうか。この場合でも生活費を渡さなければならないのでしょうか。
不貞行為をしたとしても,夫婦は夫婦なので,形式的には上述したように互いに助け合って扶養する義務があるかに思えます。
しかしながら,社会通念上の常識としても,不貞行為をしたにもかかわらず,生活費を要求するというのは,ムシの良い話と言えます。
この点,平成20年7月31日東京家裁決定では,権利の濫用としてこのような請求を認めませんでした。
すなわち,同判例では,別居の原因は主として申立人である妻の不貞行為にあるというベきところ,申立人は別居を強行し別居生活が継続しているのであって,このような場合にあっては,申立人は,自身の生活費に当たる分の婚姻費用分担請求は権利の濫用として許されないとしています。
では,全く生活費を渡す必要がないのでしょうか?
この点,上記の判例は,子供の養育費の限度では請求を認めています
不貞行為があったからと言って,子供には何の責任もありません。そのために子供の生活費まで貰えないのでは子供の福祉に反すると判断されたためです。
ですから,ケースバイケースとは思われますが,相手に不貞行為があっても一切の生活費を支払わなくて良くなるというわけではありませんので,注意が必要です。