[弁護士コラム 39]通行地役権の第三者への対抗力

私は隣地の敷地の一部に「通行地役権」を設定して貰い,通路として長年使用してきていますが,隣地の所有者が変わったとたんに通路として使わせないと言われて困っています。所有者が変わると私は通行地役権を主張できないのでしょうか。

 地役権というのは,法律用語で言えば,自己の土地(要役地と言います。)の「便益」のために他人の土地(承役地と言います。)を利用する物権のことです。そのうち,通行利益を内容とするのが通行地役権です。

 この通行地役権は物権なので,所有権と同じく登記の対象とされています。
 そこで,地役権の登記がされていれば,「第三者」(民法177条)に対抗することができます。
 設問の事例でも,登記がされているのであれば,新所有者に通行地役権を主張できます。

 もっとも,現実問題として,通行の合意がなされていても明示的に地役権の設定契約がなされることが少ない実情があるので,地役権の登記がされることはほとんどありません。

 では,登記がされていない場合には一切,通行地役権の存在を第三者に主張することができないのでしょうか。


 この点,平成10年2月13日最高裁判決は,登記がなくても通行地役権を第三者に主張できる場合があることを判示しました。

 すなわち,上記判例は,通行地役権(通行を目的とする地役権)の承役地が譲渡された場合において,譲渡の時に,右承役地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用されていることがその位置,形状,構造等の物理的状況から客観的に明らかであり,かつ,譲受人がそのことを認識していたか又は認識することが可能であったときは,譲受人は,通行地役権が設定されていることを知らなかったとしても,特段の事情がない限り,地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらないと解するのが相当であるとしました。
 土地の状況が上記のとおり通路として明確な場合には,譲受人は,通行地役権その他の何らかの通行権があることを容易に推認することができるであろうことを根拠にしています。
 そして,そうすれば,要役地の所有者に照会するなどして通行権の有無,内容を容易に調査することができるはずだからです。

 そこで,土地の譲受人は,通行地役権が設定されていることを知らないで承役地を譲り受けた場合であっても,何らかの通行権の負担のあるものとしてこれを譲り受けたものと判断するのが公平との価値判断があると思われます。

 かように登記がなくても通行地役権が認められるケースは多くありますので,土地の売買をする場合に,土地の一部が通路状になっており,現実に通路として使用されている場合には,仮に登記がされていなくても,何らかの権利がある可能性が高いので,十分な調査をすることが必要と思われます。

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