[弁護士コラム 40]建築工事での隣地使用権
私は自分の土地に建物を建てる予定なのですが,土地の形状から隣地の一部を重機等の置き場として使用しないと工事ができません。この場合に,隣人が承諾してくれない場合にはどうしたら良いでしょうか。
民法209条では,建物等の建築をする場合に,必要な範囲内で,隣地の所有者に対して隣地の使用を請求することができる権利を認めています。
そして,隣地の所有者等が不当に拒否する場合は裁判所に承諾を求めることができます。
本来は,隣地は隣人の所有権の範囲にあるので,勝手に使用をすることは所有権侵害として許されません。
しかしながら,かように所有権が絶対的なものであるとすると,非常に硬直した結果となり社会的な損失は大きくなります。
本件のような事例でも,隣人の承諾がないと絶対に隣地を使用できないとすると,建築工事そのものを断念しなければならず,その土地の効用は著しく阻害され,社会的な損失とも言えるものです。
特に市街地の住宅が密集している場所では,敷地に余裕がないために,仮設足場を組むために隣地を使用することは良く見られることと思われます。
そこで,法律は,所有権と所有権の調整として,上述のような隣地使用権を認めているのです。
もっとも,使用により損害を与えた場合には,使用者は,その賠償をしなければなりません。
そして,隣地の所有者が承諾をしない場合には,裁判所に「承諾に代わる判決」を求めて訴えを提起することになります。
決して権利があるからと言って,強引に使用を開始するようなことは許されません(自力救済の禁止)。
それでも,隣地所有者が使用を認めず,妨害行為等をする場合には,妨害一回につき金○円の支払いを命ずるというような強制執行(間接強制)の方法で妨害の排除を強制的に実現することになります。
隣地使用権はどのような範囲で認められるのでしょうか。
また,隣地使用権は,所有権絶対の原則の例外にあたるものであり,やむを得ない必要性がある場合にしか認められません。
自分の所有地だけで建築が可能な場合には,「隣が使えた方が便利」などという安易な気持ちでの使用は認められません。
その隣地の必要性の判断は厳密に検討されるべきですが,当該工事の規模や緊急性,隣地の現在の使用状況,隣地の所有者の受ける損害の有無等の事情を考慮して決定することになろうかと思います。
この点,民法上では,「境界またはその付近において障壁または建物を築造しまたは修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる」と書かれているため,上述したように境界付近で,仮設の足場を組むために敷地境界線付近に限って土地の一部を使用できるのみとも思えます。
しかしながら,必ずしもそのように硬直して考えるものではなく,隣地使用権を認めた趣旨からすれば,その必要性が強く,逆に損失がないのであれば,隣地を広く使用することも認められる可能性が十分にあります。