[弁護士コラム 43]過去の扶養料の請求
私は,母が亡くなるまで,食費等の生活の一切の面倒を見てきており,かなりの費用負担をしています。その負担について他の兄弟に均等割で請求したいのですが,可能ですか?
民法では,兄弟姉妹は相互に扶養義務があると規定しています。
そこで,あなただけが扶養の費用を負担することはないので,兄弟姉妹にも請求することができます。
また,実務では,過去に支出した費用についても請求できるとされています。 ただし,いきなり均等割で民事訴訟を起こすことは認められていません。
扶養義務者間の協議或いは家庭裁判所における調停または審判による具体的な扶養義務の内容が確定していない段階においては,民事訴訟によって過去の扶養料の求償を請求することはできないとされています。
扶養料の負担については,家庭裁判所で決められますが,家庭裁判所の審判も,審判自体によって新たに権利義務関係を作り出すものなので,家事審判を経る前の段階においては,法的に具体的な権利とは言えないからです。
そこで,要扶養者の兄弟が扶養義務者であるとしても,要扶養者の面倒を見て扶養した者から,これらの子供達に対して人数割りの分担を求めることはできないのです。
寄与分の主張と扶養料の請求は違うものなのですか?
扶養を受けた者が財産を残している場合には,扶養料の負担は寄与分の問題となり,遺産分割の協議の中で扱いが検討されることになります。
しかし,寄与分が認められなかったとしても,扶養料として請求するということは可能です。
大阪高裁平成15年5月22日決定は,寄与分の手続きと扶養請求とは別物であることを認めています。
すなわち,この判例は,扶養義務者の1人である申立人が,他の扶養義務者である相手方らに対して,過去の扶養料の求償を求めたものです。
そして,判例は,過去の扶養料の求償権は、具体的な財産上の権利であって,扶養審判を通じて行使が可能な権利であるから,その求償権をあえて具体的な財産上の権利ではない「寄与分」とみた上で、寄与分に関する審判を通じて行使させる必要は原則として認められないとしました。
そして,実質的にも、寄与分に関する審判を通じて過去の扶養料の求償を求めることは必ずしも適切でないとして,事件本人を被相続人とする遺産分割における申立人の寄与分を否定した審判が既に確定していても、本件申立てが紛争の蒸し返しに当たるものとはいえないとしています。
確かに寄与分は,財産の維持増加という要件があって,遺産分割割合の調整という限度の意味しかないことからすれば,別途扶養請求を認めることは十分に合理的と思われます。