[弁護士コラム 44]相続人と相続財産の範囲の確定
私の父親がなくなったのですが,死亡直前に姪と養子縁組をしているのですが,その時期は認知症で物事がわからず養子縁組が出来る状態ではなかったはずです。どのようにしたら良いでしょうか。
遺産分割をするには,なにをおいても,相続人の範囲と遺産の範囲を確定しなければなりません。
どうやって分けるか?以前に,「誰が(相続人)」「何を(相続財産)」という点が確定していなければ,わけようがないからです。これらは相続の前提問題と言われます。
相続人の範囲は,通常は,戸籍を取得すれば,問題なく明らかになりますが,説明の事例のように,戸籍の記載を前提に,被相続人との身分関係に争いがある場合もあり得ます。
そのほかにも,婚姻や離婚の無効,親子関係の不存在等の争いが考えられます。
このように,相続人の確定は,単に戸籍の記載の確認だけでは足らないこともあり得るのです。
遺産分割は共同相続人の全員によりなされなければならないというのは,遺産分割の大原則です。
そこで,これに反した遺産分割は無効となります。
相続人でないひとが遺産を貰ったり,相続人なのに遺産分割に参加していない場合には,遺産分割は無効とならざるを得ません。
そして,相続人の確定という前提問題については,家庭裁判所における遺産分割審判の中で判断して貰うことも,一応は可能です。
しかしながら,本来的には,地方裁判所の裁判で白黒決着をつけなければいけない問題なので,当事者は改めて裁判によって判断を求めることができます。
設問の場合には,養子縁組無効確認の訴えが考えられます。
この場合に,地方裁判所の裁判により審判と異なる判断が確定した場合には裁判の判断が優先することになり,遺産分割をやりなおさなければ,ならなくなります。
そこで,このような前提問題が有る場合には,まず,訴訟によって,相続人の範囲を確定させるのが実務の扱いです。
遺産の不動産について,相続人の一人が名義は被相続人のものだけど,自分がお金を出して購入したものだと主張していますが,どうしたら良いでしょうか。
遺産の範囲についても,相続人の範囲と同様に,遺産であるものが除外されていたり,逆に遺産でない財産を遺産分割の対象とした場合には,その遺産分割の効力に問題が生じることがありえます。
この点,相続人全員が合意の上で,遺産の一部について分割することは有効です。
しかし,残余の遺産についてあらためて遺産分割をする必要があります。
また,遺産の一部を除外して行われた遺産分割は,どのような場合でも全てが無効になるというわけではありません。
後に遺産が発覚したとしても,すでにされた一部分割として認められる場合もありえます。
無効となるのは,遺産分割の対象とされなかった遺産の存在が分かっていれば,全く異なった遺産分割がされていたであろうという事情が認められる場合です。この場合には,遺産分割に錯誤があったということで,無効とされるでしょう。
かように,遺産の範囲は,相続の前提問題として,第一に確定が必要なものです。設問のように,遺産の範囲に争いがある場合には,その遺産の所有権を巡って,地方裁判所できちんと判断を受けてから(或いは,話し合いによって遺産であるのかないのかについて合意を得てから),遺産分割を進めることになります。