[弁護士コラム 45]相続における審判前の保全処分
相続の話し合いがまとまらないため,裁判所に調停を申立てる予定ですが,その間に,相手方が自分名義となっている遺産の預金について費消してしまう可能性があります。どうしたら良いでしょうか。
相続において,遺産分割が終了するまでの間は,相続人の誰かが,事実上遺産を管理しています。
預金通帳を保管していたりする場合です。
この場合,通常は,遺産名義が,故人のままである場合には,遺産分割手続きが終了するまでは,それらの遺産の管理は「事実上」のものに過ぎず,実際に預金等の引き出しは,遺産分割協議書がない場合には,金融機関に申し出ても,引き出しはできません。
ですから,遺産名義が故人のままの場合には,金融機関が,相続が開始されたことを知っている場合には,預金の引き出しができないために,事実上の管理者に遺産を費消されてしまう心配はありません。
もっとも,故人の名義であっても,金融機関が相続開始を知らない場合には,通常の手続きと同様に,通帳と届出印があれば,預金の引き出しは可能です。
ですから,相続が開始された場合には,そのことを金融機関に届け出て,預金を凍結して貰うことが必要です。
このように,通常は預金等の遺産の保全は不要なことが多いのですが,例外的に保全が必要な場合もあります。
まずは,預金について「代表相続人」の届け出をしており,相続人の一人が自由に引き出しが出来るような場合です。
または,故人の生前から,相続人の一人に現金を預けていて,相続人が自己の名義の預金として,管理している場合です。
かような場合には,相続人の一人が自由に遺産を処分できる可能性があるために,そのような事を防止する手続きを取らなければなりません。
具体的には,どのような手続きをとれば良いのでしょうか。
上記のようなことにならないように, 家事審判法15条の3で,「遺産分割審判前の保全処分」が定められています。
保全処分の種類としては,@金銭の支払いを目的とする場合に行う仮差押・仮処分(預金の引き出し禁止や,不動産の処分禁止)A財産の管理者の選任(財産管理者選任の仮処分によって管理者を定めて,その管理者が遺産の管理を行う。)等の手続きをとることになります。
これらの手続きは,申請書類が複雑な上に,相手が財産を処分する前に迅速に行わなければならないことから,弁護士へ依頼して手続きをとることになろうかと思います。
なお,従前は,遺産分割審判前の保全処分は,遺産分割審判手続が開始された以降でなければ申し立てることができないとされていましたが,平成25年1月の家事事件手続法の施行により,審判の申立てまでしなくても,保全処分を行うことが可能となりました(家事事件手続法105)。
これにより調停の申立てた場合でも,保全処分をすることが認められています。
この点,保全処分をするにあたっては,上述の様に,相手方に知られないように一方的に命令を貰いますので,間違った処分によって相手方に損害を与えた場合に,その賠償金の担保となるように,決定にあたっては,一定額の保証金を納める必要があります。
なお,この保証金額は,通常の民事事件の保全に比べると低額に設定されているのが通常です。 そして,通常は,遺産分割が終了した場合には,この保証金は全額返還されます。
かように,審判前の保全処分は,遺産分割を安心して進めるために必要な手続きですので,相続人による財産の使い込みが心配な場合には,保全処分をするかどうか弁護士と相談して頂けたらと思います。