[弁護士コラム 46]DNA鑑定と親子関係の取り消し

私は,離婚前の夫との婚姻中に,別の男性の子供を懐胎したため,戸籍上はそのまま夫の子供として育ててきました。その後,DNA鑑定の結果別の男性の子供であることがはっきりと証明されました。その場合,前夫と子供の親子関係は取り消せるのでしょうか?

 婚姻の成立後200日経過した後に出生した子供,または,婚姻の解消もしくは取消の日から300日以内に生まれた子供は,法律上は,夫の子供と推定されます(民法772条2項)。このように法律上の「推定される嫡出子」は,父親が自分の子供でないと法律的に認めて貰う方法は,「嫡出否認訴訟」しかありません。

 嫡出子についての嫡出否認訴訟を申し立てることが出来るのは,夫だけであって,それ以外の者は嫡出否認訴訟を提起することができません。 また、夫も,嫡出否認訴訟以外の方法で,その子供が自分の子供でない事を主張することができません。
 さらに重要なのは,嫡出否認訴訟を提起できるのは,夫が子供の出生を知ったときから1年以内となっています。
 その期間を過ぎると,嫡出否認訴訟が出来ないばかりか,親子関係不存在確認訴訟やそれ以外の方法で親子でないと争う事もできなくなります。

 法がこのように嫡出否認制度を定めたのは,親子関係が社会生活の基本的な関係であるので,出生後,早期に法的関係を確定させる必要があるからとの考えからです。社会生活における「法的安定性」を重視したものです。

 もっとも,判例上は,形式的に推定される嫡出子となっていても,離婚の届出に先立ち2年程度の間,事実上の離婚をして夫婦の実態が失われていた場合や,事実上の離婚で遠隔地に居住しており夫婦間に性的関係を持つ機会が無かったことが明らかである場合等に,実質的に嫡出の推定を受けないとして,親子関係不存在確認訴訟の提起が認められています。

 DNA鑑定の結果親子関係がないことが明らかでも,嫡出子の推定が及んで,嫡出否認の出訴期間である1年が経過すると親子関係は取り消せないのでしょうか?


 では,上記同様に,DNA鑑定で親子関係がないことが明らかな場合でも,嫡出否認制度により,出生から1年の経過で親子関係は取り消せなくなってしまうのでしょうか。
 この点,最高裁平成26年7月17日判決があります。
 この判例では,夫と民法772条により嫡出の推定を受ける子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり,かつ,夫と妻が既に離婚して別居し,子が親権者である妻の下で監護されているという事情があっても,親子関係不存在確認の訴えをもって父子関係の存否を争うことはできないとしております。

 最高裁は,生物学的な親子関係よりも,長年子供として社会生活を送ってきたという事実関係を重視したことになります。

 確かに,子供として育ってきたのに,ある日突然,それまで存在するものと信頼してきた法律上の父子関係が存在しないことになることは,夫婦・親子関係の安定を破壊するものとなり,子が生まれたら直ちにDNA検査をしないと生涯にわたって不安定な状態は解消できない事になりかねません。  しかしながら,子供の意思が確認できない年齢の場合はともかく,成人して子供の意思もはっきりしている場合に,果たして生物学的な血縁関係がなくても「親子」で良いのかとの疑問は拭えません。

 もっとも,その疑問は,法律の解釈を超える部分であり,立法的な解決が必要と思われます。

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