[弁護士コラム 47]不貞行為当事者間の慰謝料請求

私は,妻以外の女性と肉体関係があったのですが,その女性と分かれる際に慰謝料の請求をされています。女性は不貞行為とわかっていたのに,慰謝料請求をすることができるのでしょうか?

 設問のように,不貞行為をしたものの間で慰謝料の請求がされることがあります。
 かような場合,設問にもあるように「不貞行為と知っていたのだから,慰謝料請求をすることはおかしい」という考えもありえます。

 古い判例では,不貞行為は我が国の公の秩序善良の風俗に反する行為であって,その損害賠償を請求するのは自己に存する公序良俗に違反する行為によって生じた損害の賠償請求をすることになるから,保護を与えるべきでなないとしています。
 法律理論としては,不法な原因のために給付したものの返還を求めることができないとしている民法708条を引用しています。

 しかしながら,最高裁の昭和44年9月26日判決では,女性が,情交関係を結んだ当時,男性に妻がいることを知っていたとしても,そのことだけを理由に民法708条の精神から,女性が男性に慰謝料請求をできないと一刀両断に判断することはしませんでした。
 男女関係に至った責任が主として男性の側にあって,女性の側の不法の程度に比して男性の側の違法性が大きいと認められる場合には,慰謝料請求は認められるべきとしています。
 例えば,男性の詐欺的な言動を信じて男女関係を持った場合等です。

判例上は,どのような具体例があるのでしょうか?


 この点,同様の事案において幾つかの判例があります。

 長野家庭裁判所諏訪支部平成23年12月13日判決では,男性が女性に全く虚偽のエピソードを交えて夫婦関係が破綻していて,離婚必至であって,女性との結婚を考えていると信じさせたケースで,女性側からの慰謝料請求を認めています。

 また,同様に東京地裁平成25年4月17日判決では,男性が不貞相手に対して,妻と離婚協議をしているという虚偽の事実を伝え,離婚が成立した際には結婚をすると繰り返し伝えたうえ,妊娠を希望する女性との間で避妊することなく性行為を行った等の事例において,やはり慰謝料請求を認めています。
 もっとも,この事案では,交際の途中で,男性の言動が虚言であったことに気がつかなかった点に女性側の落ち度を認めて,不法行為を構成する期間を限定的に交際当初から1年10ヶ月としました。

 逆に,東京地裁平成25年2月6日事件においては,女性からの慰謝料請求を否定しています。
 この事案では,男性側に離婚をする旨の虚偽の言動があったものの,女性が婚姻歴・離婚歴もあり,看護婦として稼働するなど社会的経験が豊富であることからすれば,女性の側において,男性の言動が,女性の気を引くための甘言であることを十分理解していたとしています。

 かように,不貞当事者間の慰謝料請求が認められるかは,双方の事情を考慮してケースバイケースで決められることになります。

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