[弁護士コラム 48]借地権を担保にとる場合の注意点
貸付をするにあたって,債務者の自宅土地が借地権であることがわかりました。借地権を担保にする場合には,どのようなことを注意しなければならないでしょうか?
この場合,借地権のみを担保にするというより,借地上の建物に抵当権を設定して,その効力を借地権に及ばせるとういことになります。
そのときに,何か特別手続が必要というよりも,建物に抵当権を設定すれば,判例上,その敷地の借地権は,当然に,建物抵当権の効力の及ぶ対象物に包含されるものと解されています。
そして,借地権というのは,借地借家法で,十分な保護がされていることで,所有権ではないものの,強力な権利のひとつとされており,土地の評価額の6ないし7割に相当する財産権であるとされています。
そこで,担保価値としては,建物自体の財産価値のみならず,借地権自体も担保価値の評価の対象とすることができます。
そういった意味で,担保として取得する意味は十分にあります。
もっとも,そうはいっても,借地権というのは,所有権と違って,その固有の消滅事由が発生すると消滅してしまうという意味で,絶対的な権利ではなく,状況に左右される権利であることに注意する必要があります。
例えば,具体的には,地代の不払いがあると,賃貸人である地主による解除権が認められてしまいます。そして,地主が解除権を行使すると,担保の対象である借地権自体が,消滅することになってしまいます。そうなると,抵当権の対象は,単に土地上に無権限で存在する建物のみということになります。
この建物の所有権を取得しても,地主から土地明け渡しを求められたら,これを拒否することができなくなるので,競売をしても,誰も建物を競落する者はいません。
その意味で,借地権が消滅すると担保としては全く無意味な状況になってしまいます。
では,債務者が,地代を滞納し始めたら,どのように対応したら良いでしょうか?
債務者が地代の支払いをしていないことが発覚した場合には,速やかに競売を申立てた上で,民事執行法56条に基づいて,裁判所の許可を得て地代を代払いすることにより借地権の消滅を防ぐ必要があります(代払い制度と言います。)。
債務者から回収しなければならない貸金があるにもかかわらず,さらに地代を払うのは不合理な事と思われるかもしれませんが,担保価値を維持するためにはやむを得ないと言えます。また,この立替払いをした費用については,回収できないものではなくて,競売事件における配当金の中から,優先的に支払われることになりますので,安心です。
なお,債権者が地代滞納を知らないうちに,抵当権の対象となる借地権が賃料不払いによる解除で消滅してしまっては元も子もありません。
そこで,かような事態を回避するために,抵当権者が地主から,債務者の地代の延滞があった場合には,通知・報告することを内容とする書面を交付してもらう場合があります。
地主としても,地代をもらえないよりは,代払いによって支払いをしてもらった方が有利と考える場合もありえます。
もっとも,かような書面の交付を受けていても,地主からの通知は,いわばサービスとしてなされるものであって,抵当権者と地主との間に,直接的な契約関係があるわけではありません。
そのため,このような書面の交付を受けていたとしても,地主が抵当権者に通知せずに借地契約を解除しても,地主に抵当権者に対する義務違反があったと認められないとされています。
東京地方裁判所平成11年6月29日判決でも,土地賃貸人が借地上の建物の根抵当権者に対して,「賃料不払を理由とする土地賃貸借契約解除をする場合には,あらかじめ根抵当権者に対して通知をする」旨の記載がある承諾書を差し入れた場合において,右通知を怠った土地賃貸人の解除権行使が制限されないとしていますので,注意が必要です。