[弁護士コラム 50]明渡義務と原状回復義務

私がオーナーとして賃貸している建物について,「賃貸借契約終了後に明け渡しを遅滞した場合には,1か月あたりの賃料の1.5倍の違約金を支払う」と記載されております。そして,賃借人は,鍵を返却してくれたものの,備え付けた棚やパーテーションをそのままにして退去してしまいました。この場合には,これらを撤去するまで,建物の明け渡しがないとして,違約金を請求することはできるのでしょうか。


 賃借人は,賃貸借が終了したら,使用収益の対象であった建物を返還しなければなりません。「返還」の具体的内容としては,@賃借人自身及び同居人が建物から退去したうえで,A持ち込んだ建物内の動産を搬出することが必要です。賃借人自身が退去したとしても,その子どもが残っているとか,動産を多数放置しているということになると,明渡義務が完了したとは言えないことになります。この場合には,当然,違約金を請求することができます。
 では,賃借人が動産類は持ち出したものの,備え付けた棚やパーテーションをそのままにしている場合には,建物の明け渡しをしたとはいえないのでしょうか。

ただ,賃貸人としては,賃貸借をした時点の状態に戻して返却をして貰わないと,困ります。建物の明け渡しをしたとは言えないと思います。

 この点,確かに賃借人は,建物を元に戻す「原状回復義務」を負っているのは間違いありません。そこで,当然,備え付けの棚やパーテーションを撤去する義務を負います。
 しかしながら,この「原状回復義務」をきちんと履行しないことにより,建物の明け渡しが未了であると言えるかどうかが問題です。というのは,建物を明け渡した後に,原状回復工事を行うということもあり得るからです。
 結論的には,一般的には,賃貸借契約における賃借人の目的物返還義務(建物明渡し義務)というのは,「建物から退去するとともに,不動産内にあった動産を取り除いて賃貸人に直接的な支配を移すこと」であって,上述のとおり備え付けの棚等があったとしても,賃貸人に直接的な支配を移したとすれば,明け渡し義務は履行されていると考えられます。

しかし,実際問題としては,棚等が存置してある状態では他に賃貸することができず,現実に損害が生じています。

 そのような気持もわかりますが,一般に,建物賃貸借契約において,契約終了に基づく建物返還後,少なくとも通常想定しうる範囲の原状回復工事に必要な相当期間については,特別な合意のない限り,賃借人に賃料等を負担させないものとするのが通常であるから,判例も,明渡後,原状回復完了までの期間中,次のテナントに賃貸できないからといって,違約金や損害賠償を賃借人に請求することは,原則としてできません。
 もっとも,新たな賃貸借の妨げとなったり,賃借人に過大な原状回復工事の負担をかけるような重大な原状回復義務の違背がある場合には,例外的に明渡義務の不履行に当たる場合もあり得ます(高松高裁平成24年1月24日判決)。
 → [弁護士コラム]目次へ戻る





相模大野駅前弁護士事務所
〒252-0303
相模原市南区相模大野8-10-4 101セントラルビル 201
(駅徒歩3分)