[弁護士コラム 53]騒音と賃貸借契約の解除について

 アパートを賃貸しているのですが,賃借人の一人が騒音を出して近隣に迷惑をかけています。賃貸借契約を解除して建物の明け渡しを請求できませんでしょうか。賃貸借契約の解除条項として「近隣に迷惑をかける一切の行為」というような記載があります。

 賃借人は,使用物件について,定められた用法に従ってきちんと利用する法律上の義務を負っています。法的には,「用法遵守義務」と言われています。
 通常のアパートでは,日常生活上必要な音以外の騒音を出すことは,当然に,「用法遵守義務」に違反していることになります。騒音を出すことが当然の前提となっているカラオケボックスなどと違って,一般的に,住居用のアパートで騒音を出すことは予定されていないからです。

 もっとも,あらゆる騒音が禁止されるわけではなくて,「日常生活上必要な音」以外の騒音ということになります。たとえば,洗濯機の音・テレビの音等の通常の音が,隣室に漏れたとして,通常はやむを得ないのが通常だからです(最近は,建築技術の向上なのか,隣室にかような音が聞こえることもないと思いますが)。
 聞いている人が「うるさい」と思えば,騒音になるということではないのです。
 
 法律的に言うと,音の程度・時間帯や音を出している期間的な長さ・発生音源の内容・アパートの周囲の環境・騒音をめぐっての近隣同士の過去の交渉経緯等の,いろいろな事情を総合的に考えて,社会通念上「受忍限度を超えた」騒音か否かを個別具体的に判断していくことになります。
 実際には,自治体が定める環境基準(40〜60デシベル)が,ひとつの基準にはなります。この環境基準はHPなどで調べることができます。
 そして,騒音であると判定された場合には,「近隣に迷惑をかける行為があった」として解除することができます。
 もっとも,騒音を出していることを立証する必要がありますので,録音・録画等できちんと騒音を出していることや,その程度について証拠を残しておかなければなりません。自治体では,騒音測定機を無償レンタルしているところが多いと思いますので,環境課等に問い合わせて見てください。

 それでは,「近隣に迷惑をかける行為」を特約で禁止していなかった場合には,解除はできないのでしょうか?

 この点,仮に近隣迷惑行為を禁止するという特約がなかったとしても,アパートの賃貸借契約の場合にあっては,賃貸人が各賃借人に対しそれぞれ平穏に居住させる義務を負っている半面,賃借人は,上述したとおり,用法遵守義務として,他の賃借人など近隣の迷惑となる行為をしてはならない義務を賃貸人に対し負っています。
 そこで,近隣の迷惑となる行為すなわち義務違反の程度が著しく,賃貸人と賃借人間の信頼関係が破壊されるに至っているときは,賃貸人は催告することなく賃貸借契約を解除することができます。

 東京高裁昭和61年10月28日判決もそのことを認めています。
 この判決の事案は,騒音に関するものではありませんが,通路に物をおいたり,他の賃借人を追い回したり,階下に水や物を落とすなどの迷惑行為を繰り返したものでありますが,騒音の場合も同様に考えることができるでしょう。

 → [弁護士コラム]目次へ戻る





相模大野駅前弁護士事務所
〒252-0303
相模原市南区相模大野8-10-4 101セントラルビル 201
(駅徒歩3分)