[弁護士コラム 55]寄与分の認定と遺留分
私は,父親と一緒に家業である店舗をもり立てて来たので,寄与分としては遺産全体の8割を認めて欲しいと思いますが難しいでしょうか?寄与分に上限はあるのでしょうか?
この点,確かに民法上は寄与分の上限について,明確な定めはありません。
唯一,民法904条の2の第3項において,「寄与分は,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。」との既定があるだけです。
この既定は,遺贈された部分にまで寄与分の主張はできないということを意味しております(遺贈された額が自身の遺留分を越えている場合には,寄与分ではなく遺留分を主張することになります。)
では,寄与分は際限なく認められるのでしょうか。
上記条文の第2項に「前項の協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,家庭裁判所は,同項に規定する寄与をした者の請求により,寄与の時期,方法及び程度,相続財産の額その他一切の事情を考慮して,寄与分を定める」との条文があります。
そこで,この「一切の事情」として遺留分を考慮することになるのか,即ち,遺留分と寄与分はどちらが優先するのかが問題となるわけです。
本件同様の事案で,東京高裁の平成3年12月24日決定があります。
この決定では,寄与分については法文の上で上限の定めがないが,だからといって,これを定めるに当たって他の相続人の遺留分を考慮しなく てよいということにはならなず,寄与分を定めるに当たっては,これが他の相続人の遺留分を侵害する結果となるかどうかについても考慮しなければならないとしています。
即ち,判例は,上述した「一切の事情」として,遺留分を勘案しなければならないとしているわけです。
遺留分というのが,相続人の最低限の取り分を法定したものであることからすれば,かように寄与分に上限を設けることの方がバランスが取れているとの判断だと思いますが,市民感情に合致したものと言えると思います。
それでは,どんな場合でも,絶対に遺留分を侵害するような寄与分は認められないのですか?
この点,いかなる場合でも,絶対に遺留分を越えてはいけないかということになりますと,考慮の余地があろうかと思います。
というのは,あくまでも「一切の事情」のひとつとして遺留分を侵害しないということを一応の目安にはすることになるかと思いますが,寄与の程度によっては遺留分を越える寄与分を認めることが「公平」といえないこともないからです。
上記の判例も,「さらに特別の寄与をした等特段の事情」があれば,遺留分を侵害する寄与分もありうる余地は認めています。
もっとも,実際には,寄与分自体が「特別な寄与」でなければ認められないところ,さらに遺留分を侵害する限度まで認められる「特別な寄与」とは,いったいいかなるものなのか判然とはしません。
そこで,現実には,遺留分を越えるような寄与分が認められるのは,なかなか難しいことになろうかとは思います。