[弁護士コラム 56]財産分与の基準時について
離婚をするに際し,財産分与の協議をしています。
私たちはすでに別居をしているのですが,夫は,別居時にあった唯一の財産であった100万円の預貯金を,別居後に遊興費に費やしてしましました。
現在では預貯金はほとんどないので,財産分与はする必要がないなどと言っています。私は財産分与を受けられないのでしょうか。
私たちはすでに別居をしているのですが,夫は,別居時にあった唯一の財産であった100万円の預貯金を,別居後に遊興費に費やしてしましました。
現在では預貯金はほとんどないので,財産分与はする必要がないなどと言っています。私は財産分与を受けられないのでしょうか。
かような場合には,財産分与をする基準時はどこにあるかが問題となります。
離婚時となると,夫の主張のとおり,財産はないことになってしまい,財産分与の必要がなくなります。
しかしながら,財産分与というのは夫婦が協力して築き上げた財産を分与するべきとの考えに基づいています。
とすると,夫婦の協力関係がなくなったときが財産分与の基準時とするのが合理的と思われます。そして,通常,別居時には夫婦の協力関係はなくなっています。
そんのため,実務の大勢は,「別居時」基準となっております。
この点,最高裁判所の判例で,財産分与について定めている民法768条3項の「一切の事情」とは当該訴訟の最終口頭弁論当時における当事者双方の財産状態の如きものも包含する趣旨と解するを相当とするとするものがあります(昭和34年2月19日判決)。しかしながら,この判決は,別居時を基準とすることを否定している判決とはとられていません。
かように「別居時」を基準とすると,例えば,設問のとおり別居時にあった財産を使い込んでしまった場合でも,その財産を基準に財産分与をすることになります。逆に,別居後に働いて貯めた収入については,財産分の対象とならないことになります。
それでは,別居の後の財産は,どんな場合でも財産分与の対象にはならないのでしょうか?
この点については,別居中に夫が住宅ローンを返済し,妻が未成年者を養育している場合には別居中も未だ協力関係にあると言える場合もあり得ます。
東京地裁平成12年9月26日判決は,「原告による離婚調停の時期以降実質的に婚姻関係は破綻していたものではあるが,右調停申立後も同居中は生計をともにしており,別居後も財産的な関係では原告と被告は従前同様の関係にあるということができる。」と判示して,離婚裁判の口頭弁論終結時を判断基準としています。
また,自営業等で別居をしながら,仕事については協力関係をもって財産を築いている場合も同様です。
また,いわゆる「扶養的財産分与」,即ち財産を清算するための財産分与ではなく,将来の扶養に必要と考えて決定される財産分与については,離婚時を基準とすると考えられております。まさに離婚時に将来の扶養が必要かどうかが問題となるからです。