[弁護士コラム 58]遺産分割までの黙示の使用貸借
私達家族は,父の生前から父と同居して,父が所有していた土地建物に居住してきていました。今般,父親が死亡したところ,相続人の兄弟たちから,「無償で建物に居住しているのはおかしい。家賃を支払って欲しい。」と言われてしまいました。私達は家賃を支払わなければならないのでしょうか。
遺産は相続人の共有物です。そして,共有物について,ひとりの共有者が占有使用しているときには,他の共有者は自己の持分割合に応じて,占有部分に係る賃料相当額の不当利得金ないし損害賠償金の支払いを請求することができます(最高裁平成12年4月7日判決)。
しかし,本件では,ちょっと事情が違っています。
あなたは,お父さんが生きている間は,お父さんの承諾を得ていたので,その家に無償で住むことができました。 もっとも,お父さんとあなたの間に無償居住について契約書を交わしていることなどはないでしょう。親族の間のことですから,口頭で承諾を得ているだけだと思います。
しかしながら,口頭であっても,居住を許されていたわけですから,法律的に使用貸借が認められるか,或いはお父様の履行補助者として,法律的に居住する権利があったのは間違いありません。
お父さんが亡くなった場合には,無償で住む根拠はなくなるとも思えます。
しかしながら,亡くなったお父さんとすれば,自分が死亡したら,直ちに家から出て欲しいとか家賃を支払って欲しいという意思だったかどうかは疑問です。少なくとも,遺産分割終了までは住んでよいと考えていたと推測できます。
この点,判例(最高裁平成8年12月17日)も,「共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは,特段の事情のない限り,被相続人と右の相続人との間において,相続開始時を始期とし,遺産分割時を終期とする使用貸借契約が成立していたものと推認する」としています。 そこで,あなたは,遺産分割終了までは無償で,そのまま住み続けられると思います。
この無償で住み続けられるというのが,事実上のものではなくて,「使用貸借」という法律上の権利であることを認めたものです。
かように,権利として居住することができるわけなので,特に家賃を支払う必要もないでしょう。