[弁護士コラム 59]マンション管理費と相殺
私は,マンションの一室に区分所有者として居住していますが,先般の台風でマンション駐車場に倒木があったのを自費で撤去しました。本来は管理組合が撤去すべきものと思いますので,その撤去費用を請求したいと思っております。そこで,この撤去費用に満るまで月々のマンション管理費と相殺をしたいと思っておりますが,可能でしょうか?
マンションの組合員が管理組合に対して支払うべき管理費があった場合に,その債務者が管理組合に対して逆に何らかの債権を持っている場合,その債務者が相殺を主張することはありうることです。
設問の事例においても,撤去費用を貰ったうえで管理費を支払うというのは,方法としては,行ったり来たりで無用な労力がかかっているとも思えます。
また,そもそも,同種の債権について,それぞれ弁済期にある場合には相殺が出来るのが原則です。
もっとも,性質上相殺が許されない場合には,相殺はできません(民法505条1項但し書き)。 そこで,マンション管理費というのが,性質上相殺が許されないものかどうかが問題となります。
この点については,東京高裁平成9年10月15日判決があります。
この判例は,共用部分の樹木を剪定して,その費用を負担したので,費用の償還請求権と管理費等の債権を相殺するという主張がされた事案でした。
これに対し,管理組合が管理費は性質上,相殺が禁止されていると主張をしたものです。
結論としては,管理組合の主張がみとめられました。
判例は,その理由として,そもそもマンション管理費・修繕積立金というのは,マンションの区分所有者全員が建物等の維持管理のために必要とされるものであるとして,マンションの維持管理というのは,集団的・計画的・継続的に行われるので,現実に管理費が拠出されないと,建物の維持管理に支障が生じると述べています。
もっとも,この判例には学説的には批判もあり,また,最高裁の判断でもありませんので,確定的な判例というわけでもありません。
また,実際上も管理組合が了承をすれば,相殺をしても特に問題はないケースも多くあろうかと思います。
ただし,高等裁判所の判例として先例としての価値があるものですので,実務にあたっては注意が必要です。