[弁護士コラム 8]遺留分の行使と言える場合

 遺留分の行使はどうやってするんですか?
 遺留分とは,被相続人の兄弟姉妹以外の相続人に対して留保された相続財産の割合をいいます。遺留分は遺言書をもってしても失わせることはできない,相続人の最低限の権利です。

 もっとも,遺留分は自動的に認められるものではなく,遺留分権利者が,相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しない場合には,権利を失います。

 遺留分の行使というのは,受遺者等に遺留分を請求する意思を表示することをいいます。
 それは,特に裁判上の手続でなければならないわけではなく,「遺留分を主張します。」ということを意思表示すれば良いものです。
 通常は,内容証明郵便で遺留分を主張することになります。

 遺産分割の申し入れは遺留分の行使といえますか?
 遺産分割協議の申入れをした場合に,この申し入れが遺留分減殺請求の意思を表示していると言えるかどうかが問題となることがあります。
 素直に考えると,遺産分割と遺留分減殺とは,要件や効果が異なります。
 そこで,遺産分割協議の申入れに,必ず遺留分減殺請求の意思表示が含まれるということはできないと思われます。

 しかし,この点で,最高裁平成10年6月11日判決があり,「披相続人の全財産が一部の者に遺贈された場合には,遺贈を受けなかった相続人が遺産の分配を求めるには,法律上,遺留分減殺によるほかないのであるから,遺留分減殺請求権を有する相続人が,遺贈の効力を争うことなく,遺産分割協議の申入れをしたときは,特段の事情のない限り,その申入れには遺留分減殺の意思表示が含まれていると解するのが相当である。」としています。

 そこで,相続人の一人に全財産について,包括遺贈がなされた場合には,原則として遺産分割協議の申入れに遺留分減殺請求の意思表示が含まれているとして良いことになります。
 ただし,遺贈の効力を争っている場合には,別ということなります。
 実務上は,遺贈の効力を争っている場合には,負けた場合には遺留分を請求しなければならないので,念のため,「遺贈が有効だとすれば,遺留分を主張する」ということを相手に伝えておくやり方をとります。

 受遺者からの訴訟で抗弁として遺留分を主張した場合はどうでしょうか?
 遺留分減殺請求は,裁判外でしてもよいですし,家庭裁判所に対して遺留分減殺の調停の申立てをするやり方もあります。
 さらに,遺留分減殺請求の結果,遺留分権利者に所有権があるということで,所有権確認訴訟を提起したり,不動産登記請求ということもありえます。

 かように,遺留分を請求する意思が明確になっていれば,その方法は広く認められています。
 ですから,受遺者が提起した訴訟の中で,抗弁(訴訟で,原告から出た請求原因に対する被告からの反論のこと )として,遺留分の主張をすることでも良いとされています。  もっとも,単に訴訟の中で遺贈を否認しただけでは,さらに遺留分を主張する意思があるのかどうか明確ではありませんので,遺留分の行使とはいえないでしょう。






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